商店街を駆け抜ける。
これから、アレックスとの本当の日々の始まり。
なるべく人の邪魔にならないように歩道の端を走る。
左側には、アレックスがピッタリ影のようについてくる。
左側を見ると必ずアレックスは目を合わせてくれる
前を向いてマンションまで10分。
その時、
ジリリリリリリ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「?」なんだろ?
アレックスも不思議顔?

ドン。
アレックスと誰かがぶつかった。
謝ろうと思ったら、走り込んできた男が
私を抱きかかえた。
なに?
だれ?
怖い?
たすけて。
怖くて声が出ない。


アレックスは
蹴られたせいでうずくまっている。
大丈夫?
声を搾り出す。
「アレックス!」

どうにか抵抗して足が地面に着いた。
それでも、後ろから首を腕で絞めながら
引きずられる。

誰?やめて!

アレックスが起き上がった。
よかった。
あ。でも怒ってる。
アレックス怒ってる。


駐車場に連れてこまれた。
どうやら銀行強盗らしい。
目の前に包丁が突きつけられた。
不思議と怖くはなかった。
ただ、アレックスが怒ってこの犯人をケガをさせたりして
逆にアレックスが捕まったりしたら困る。
それだけは避けたかった。

「近づくな!!このガキの命はねぇぞ!!!」

目の前にはガードマンとかが様子をうかがっている。
警察はまだ着てない。
アレックスがいない?
どこ?アレックスどこにいるの?

左を見たらかすかに影が見えた。
アレックスだ。
でも犯人に見つからないようにあまり見ないようにする。
低い姿勢で車の陰にいる。


の前には時折、包丁が鈍い光を反射させながら
ヒラヒラと右から左へ。そして左から右へ流れていった。

アレックスを見た。
始めて見る目つき。
思わず、ダメ!きちゃダメ。ののは大丈夫だから
と、思った。
アレックスは(なんで?)て顔をして。
(大丈夫だよ。)と言っている様だった。

絶対にケガさせちゃ、ダメだよ。それと気をつけて

(わかった。ケガさせないよ。)
伝わってくるアレックスの気持ち。

横目でアレックスを伺う。
姿勢を下げて少しずつ前進してくる。
犯人も気がついてない。
あとは私がアレックスの邪魔をしないように。
拳に力をこめる。

目の前に包丁がまた行ったり来たりしていた。
「!」
その時、目の前に何かが横切った。
目線の高さと同じ高さ。
鳥のようなに華麗に、美しく。


アレックス?
アレックスなの?
凄い。
「ガチン」
なにか鈍い音がした。
「あ、うわぁ〜〜」
〜カラーン、カキン〜

ギラリと鈍く光る物が地面に転がった。
今だ。
走って逃げる。

振り返ってアレックスを見たら、
自分とアレックスのプロレスごっこを見ているような
体勢だった。
「うわああ。助けてくれ〜」

アレックスもういいよ。
戻っておいでって言おうとした時。

犯人のもがき苦しんでいる左手に
落ちている包丁が当たった。
それを犯人は掴むとなんの迷いもなくアレックスに刺した。


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
声が出ない。
あ。
口から空気が出ない。
吸い込むことしか出来ない。
刺されたアレックスは何事もないように
犯人の襟を噛んで振っている。
しばらくしたら犯人がグッタリした。
アレックスが口を離した。
口から血が出ている。
右側に深々と包丁が、刺さっている。
やっと、息を吐き出した。

「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

こんな声しか出ない。

アレックスは何にもないように歩いてくる。

死んじゃう。
しんじゃう。
アレックス死んじゃうよぉ。
目の前が真っ暗になった。
大丈夫じゃない。


息苦しそうだ。

首を刺さった包丁の方に向けて取ろうとする
届かない。
やめて。

すぐにまたこっちに歩いてくる。
いつもの力強さがない。

口から血が出てる。
うそだよね。
アレックス。
あなたは強い犬だって聞いてたもん。

アレックス。
今からそっちに行くから待ってて。
足に力が入らない。
それでも、アレックスのところに。

「アレックス・・・」
そっと頭をなでる。

アレックスの優しい目。
(ねぇ。ののちゃんて呼んでいい?)
って問い掛けてくる。


もちろんだよ。
アレックスと、ののは親友だもん。
ペットじゃないんだよ。
親友なんだよ。

(これからも、一緒だよね?)

そのはずだったのに・・・
アレックスの脇腹に不自然に生えている
木のせいで、金属の根っこを張った木のせいで。
思わず、声が漏れる。
「・・・ばか」

アレックスは悲しそうな顔をした。
たぶん自分の体に包丁が刺さっている事に気づいてない。

アレックス。違うの。
そんなことじゃないの。
アレックスの体・・・
震えて声が中々でない。
アレックスの体からチカラが抜けていく。
抱きしめながら、ありったけの声を振り絞った。

「だれかぁ〜。ね〜たすけて〜。アレックスが!アレックスが〜」

パトカーの赤いライトがギラギラと下品に光を撒き散らしている。


そんな赤い光がアレックスの顔を映し出す。
今まで見たことのない程の幸せそうな、アレックスの顔。

「アレックス、死んじゃったの?

ウソだよね。

だって、のの、がんばったんだよ。

これから、一緒になるためにがんばったんだよ。

早く、目をあけて。

ねぇ。

おねがい。

どうしても、ダメなの?

それじゃ、最後に聞いてよ。

本当に、ありがとう。

ありがとう。」

〜「波のように、風のように」〜 ─終わり─