相変らず、汚い机の上。
散らかった資料。
外では犬の声がする。

深野はタバコをくわえながら帰り支度をしている。

岡部は深野を待ちながら
映りの良くないテレビをインスタントコーヒーを
飲みながら、ぼんやり見ていた。

テレビからは何かの授賞式らしいものを
映し出されていた。

『それでは、発表します。
レコード大賞は・・・』
派手なドラムロールが鳴りステージが暗くなる。
そして、ピンスポットが集団を照らした。
『モーニング娘。のみなさんで〜す。』

テレビから聞こえた、その音に岡部が反応する。
「深野さん、モーニング娘。って」

「おぉ〜アレックスのおじょうちゃんがいるところだな。」


「もうあれからどれくらい経ちましたっけ?」
岡部は思い浮かべるようにタバコに火をつけた。

深野は吸殻でいっぱいになった灰皿にタバコをねじ込むように消した。
「何ヶ月だっけな?」
苦い顔して押し付ける。

しばしの沈黙。
テレビからは音楽が流れ始める。

揃いの黒い衣装の女の子達が踊っている。

「あの子はいるかな?」
岡部は映りの悪いテレビを覗き込む。
「お。真ん中で堂々と踊ってますよ。」

「はじめて会った時とずいぶん違うな。
堂々としてるねぇ〜。これがアイドルってやつか?」

「もうアレックスの事、忘れっちまったのかなぁ?。
それにしても力強い目してるな。たいしたもんだよな〜
若いからな、夢中になるのも冷めるのも早いのか。
あんなに、アレックスのことに夢中だったのに─」

少し岡部が残念そうな悲しそうな顔でつぶやく。

「岡部、よく見てみろよ。
あの、おじょうちゃんだけ腰に何かついてんだろ。」

岡部が画面を食い入るように見る。
「あ。あれって・・・」


黒い衣装の腰には、その衣装には決して似合うとは言えない
薄汚れた蛍光ピンクベルト。
それはあまりにも、不自然。
ハッキリいえば、協調性に欠ける。
ベルトは柔道の帯のように結ばれ
結び目は腰の横の部分にあった。

「アレックスのリードだろ。あれ!
おい。うれしいじゃねぇか。なんだかよ。」
深野はすっかり手を止めて、うっすら涙を浮かべているように
テレビを見てる。

「そっか、そっか。アレックスも本当にいい飼い主見つけたんだな。
良かったな、アレックス・・・。
ちゃんと一緒にいるんだな。」
岡部は、うなずきながら画面に釘付けになる。


画面には辻がアップで映し出される。
宝石のような汗を額にのせながら歌っている。
透き通る声には、チカラ強く
そして堂々としたダンスは美しかった。
腰には、薄汚れたピンクのリードが揺れている。


それは喜んでいるアレックスの尻尾のように。

〜番外編 1 〜 ─終わり─